ただいま紹介いただきました選考委員会の議長を務めています西田です。最初に、本日上原賞を受賞されます神取秀樹博士、柚﨑通介博士のお二方、並びに研究助成金、研究推進特別奨励金、研究奨励金および海外留学助成金、若手海外留学支援金を受けられます皆様に心からお祝い申し上げます。 おめでとうございます。 これらの褒賞・助成金は、すべて上原記念生命科学財団からの13億円余にのぼる助成金により行われるもので、ご列席の上原明理事長、上原茂評議員議長、上原健常務理事をはじめとする財団関係者の方々、また支援していただいております大正製薬のご尽力に心からの敬意と感謝を申し上げる次第です。さて、本年度の選考経過を申し上げます。上原記念生命科学財団の褒賞・助成事業は、研究業績褒賞事業として上原賞が、助成事業として特定研究助成金、研究助成金、研究推進特別奨励金、研究奨励金、海外留学助成金、若手海外留学支援金、来日研究生助成金、国際シンポジウム開催助成金があります。 上原賞を除く助成事業は、A領域からD領域までの各研究領域で公募され、申請書類を基にした予備審査を受け、その評点をもとに選考委員会で議論され決定されます。 また、上原賞は2度にわたる選考委員会の第1回で候補者を少数名に絞り、第2回の選考委員会で最終候補2名を決定します。 2024年度の選考は、昨年11月11日の第1回、11月29日の第2回の選考委員会で行われ、その結果が12月13日の理事会で承認、決定されました。まず、上原賞の選考経過についてご報告します。 本年度は、各学会代表者、上原記念生命科学財団役員・評議員・名誉理事・諮問委員並びに上原賞既受賞者の皆様から14名の候補者のご推薦をいただきました。 いずれも大変優れた業績を挙げておられる方々です。 選考委員会では2回に亘り厳正なる討論を行い、その結果、名古屋工業大学 大学院工学研究科 特別教授 神取秀樹博士、慶応義塾大学 医学部 生理学教授 柚﨑通介博士のお二方を上原賞候補として理事会に推薦、理事会でのご承認を得てご受賞の運びとなりました。 先生方の研究業績は後程ご講演いただけることになっておりますので、ここでは選考のポイントをご紹介させていただきます。神取秀樹博士の受賞対象となった研究業績は、「光遺伝学的視覚再生の基盤ツールとなるロドプシンの開発研究」です。 神取博士は光遺伝学に欠かせないツールであるチャネルロドプシンや光駆動ポンプなど微生物ロドプシンの研究に於いて、最先端の分光学的手法を適用することで、光がどのような反応によってタンパク質に取り込まれ、それがどのように機能に繋がるのかというメカニズムを解明されました。 さらに、得られた分光データを活用して、光駆動ナトリウムポンプ、内向きプロトンポンプ、新規チャネルロドプシン、酵素ロドプシン、ヘリオロドプシンといった数々の新しいロドプシン機能を発見されています。 機能の創成については、光駆動プロトンポンプを1アミノ酸の変異によりクロライドポンプへと転換したことを端緒として、光駆動カリウムポンプ、光駆動セシウムポンプやキメラロドプシンの創成を実現されておられ、発見した新規チャネルロドプシンと創成したキメラロドプシンは失明患者の視覚再生ツールとして開発が進められており、社会実装が期待される卓越した研究業績であります。一方、柚﨑通介博士の褒賞対象となりました研究のタイトルは「新しいシナプス接着機構の解明と神経機能操作法の開発」です。 脳を構成する神経回路では、神経細胞のつなぎ目である「シナプス」を介して情報が伝達されます。 うつ病、統合失調症、自閉スペクトラム症、認知症などの精神疾患や発達症の多くは、シナプスの機能や構造の異常に起因する「シナプス症」であることが近年提唱されておりますが、その分子機構については未解明な点が多いのが現状であります。 柚﨑博士は神経回路がより単純である小脳をモデルとして、記憶・学習の基礎過程であるシナプス可塑性(LTP/LTD)を担う分子機構の解明を進め、その成果を海馬や大脳など他の脳部位にも適用できる一般原理として発展させておられます。 これらの知見に基づき、in vivoにて可逆的にLTDを操作できる光遺伝学ツールを開発し、小脳の特定シナプスでのLTDと運動学習との因果関係を実証しています。 またシナプス形成分子Cbln1の発見を契機として、補体C1qファミリーに属する新しいシナプス形成分子群を世界に先駆けて発見し、その動作原理を確立しておられます。 そして、これらの分子群の機能と構造に基づき、興奮性シナプスを誘導する人工シナプスコネクター(CPTX)を開発し、アルツハイマー病や脊髄損傷モデルマウスへの投与により、学習・記録機能や運動機能が著しく改善することを示され、シナプス修復を目指した新しい治療戦略としての発展が期待される独創的な研究業績であります。選考経過報告/次ページへつづく2024年度 上原賞選考経過報告(理化学研究所 領域総括)31西田 栄介 選考委員会議長
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