上原記念生命科学財団の上原賞を受賞された神取秀樹博士、柚﨑通介博士、ならびに本日ご列席の205名の各種助成金受領者の皆様に、心よりお祝い申し上げます。とりわけ神取博士および柚﨑博士におかれましては、新規ロドプシンを用いた光遺伝学の発展、ならびにシナプス形成機構の研究において、すでに国際的に高い評価を受けられ、卓越した研究成果を挙げてこられました。 上原賞のご受賞、誠におめでとうございます。 改めて心からお祝い申し上げます。上原記念生命科学財団は、昭和60年(1985年)の発足以来40年にわたり、延べ約11,850名の研究者に対して、総額約385億円にのぼる研究助成および褒賞事業を展開してこられました。 本年は創立40周年にあたり、更なる助成事業の改革も進められていると伺っております。 これまで本財団の支援により、多くの研究者が励まされ、優れた研究成果を生み出してきました。 私自身も2004年度に上原賞を賜り、大きな励みとなりました。 当時の選考委員長は中西重忠先生で、私と故・田中啓治先生が受賞いたしました。 受賞スピーチでは、私の「アフリカツメガエル卵母細胞を用いた受容体発現クローニング」、田中先生の「プロテアソームのクローニング」、いずれの研究も「中西先生から学んだ基礎があってこそ」と両名が述べたことを覚えております。 その後も田中先生とは親しく交流を続け、2011年の東日本大震災の日には、偶然にも隣同士に座っており、互いに声を掛け合いながら避難したことが深く記憶に残っています。 あの日、皆で助け合った経験は、今も私にとって大切な思い出であり、上原財団の贈呈式に参加するたびに、人との繋がりの大切さを改めて実感しております。近年では、公的研究資金が必ずしも潤沢でなく、とくに地方大学における研究環境の疲弊が顕著となっています。 また、短期的成果が求められる風潮の中、基礎研究よりも応用研究が優先される傾向が強まっています。 そのような中で、上原記念生命科学財団が、健康科学・薬学・化学(A)、基礎医学(B)、臨床医学(C)、融合領域(D)と4部門に分けてバランスの取れた助成を行っておられる姿勢は、特筆すべきものと存じます。 さらに、財団の海外留学助成事業では、年齢に応じた支援制度が整備され、今年も約91件もの助成が行われています。 これは公益財団の中でも群を抜く規模であり、多くの若手研究者が海外での研鑽を積む上で、力強い後押しとなっております。私自身の経験を少しご紹介いたしますと、私が留学したのは今から40年以上前、1982年のことです。 当時はまだ上原財団は存在せず、いくつかの小規模な財団から50万円、70万円といった助成を受け、家族4人でスウェーデンに渡航しました。 その年は、カロリンスカ研究所のサムエルソン博士と、その恩師であるベルグストレーム教授、英国のベイン博士がノーベル医学生理学賞を受賞した年でもありました。 カロリンスカ研究所では、世界中から集まった研究者たちと寝食をともにし、切磋琢磨する日々を過ごしました。 家族ぐるみの交流も多く、苦楽を共にした仲間たちは現在も世界各地で活躍しており、共同研究や情報交換を続ける生涯の友となっています。また、文化の違いからも多くのことを学びました。 当時のスウェーデンでは既に共働きが当然であり、男性研究者が「来月から半年間の育児休暇を取る」と当たり前のように話す姿に衝撃を受けたのを覚えています。 高い税率の一方で、教育・医療は無償で提供され、年金制度も充実しており、外国人に対する教育や職業訓練も整備されていました。 また、高校卒業後すぐに大学へ進学するのではなく、企業などでの実務経験を経てから、モチベーションを持って入学するという選択肢も存在し、非常に印象深く感じました。 こうした経験は日本国内では得難いものであり、若手研究者の皆さんには、ぜひ海外留学を経験してほしいと心から願っております。 論文執筆以上に、かけがえのない学びと人間的成長の機会があると確信しています。 私自身、東京大学を退職後、幸運にも国立国際医療研究センターにて10年任期のポジションを得て、膜脂質を中心とした脂質生物学の研究を継続することができました。 さらに現在は、柴﨑正勝先生のお招きにより、上大崎にある微生物化学研究所にて、放線菌・カビ・冬虫夏草などの微生物から生理活性物質を探索する研究に携わっております。 脂質膜合成酵素の阻害剤探索という私の専門と、天然物化学の融合を図っており、日々新たな発見と学びの連続です。 私自身は、計画に沿って人生を歩んできたというよりは、ご縁をいただいた場所で、求められる役割を一生懸命に果たしてまいりました。ご来賓 祝辞/次ページへつづくご来賓 祝辞(微生物化学研究所 所長)33清水 孝雄 氏
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