一年のあゆみ_2024年度
42/100

 ロドプシンは7回膜貫通の光応答性タンパク質(図1a)であり、我々の目の中で視覚の光センサーとして働いている。 1971年には光駆動プロトンポンプとして働くバクテリオロドプシンが古細菌から発見され、現在ではヒトからバクテリア、ウイルスに至るまでロドプシン遺伝子が見つかっている[1,2]。 動物ロドプシンは視物質としてGタンパク質を活性化する一方、微生物ロドプシンはポンプ・チャネル・センサー・酵素など多彩な機能を持つ。 ロドプシンは構造機能相関の研究が進んだ膜タンパク質としてよく知られているが、最近では光遺伝学の主要ツールとして応用研究への期待も高い。 動物ロドプシンと微生物ロドプシンにアミノ酸の相同性はなく、別々の進化をたどってきたと考えられているが、いずれもレチナール分子を内部に結合しており、その光反応により機能がスタートする。 結合するレチナールは、動物ロドプシンが途中で曲がった11-cis型、微生物ロドプシンが真っ直ぐ伸びたall-trans型であり、光を吸収するとそれぞれall-trans型、13-cis型へと変化する(異性化反応)(図1b)。 動物ロドプシンと微生物ロドプシンの光反応の特徴として、前者が反応後、レチナールが解離するのに対して、後者は熱反応で元に戻ることが挙げられる。 前者の場合、視細胞中では新しい11-cis型レチナールが供給されるが、実験においてはすべてを暗室で操作しなければならない。 ロドプシンがどのようにして光により活性化されるのか明らかにするためには、レチナールの光反応により誘起されたタンパク質の構造変化を正しく理解する必要がある(図1c)。 そのためにはロドプシンの構造と構造変化を幅広い時空間で正確に捉えることが求められる。 我々はこれまでロドプシンの作動メカニズムを研究する中で、新しいロドプシン機能の発見や創成にも関わってきた。 興味深いことにそれらは光遺伝学のツールとして生命科学に貢献するだけでなく、失明された患者さんに光を届けるための新しい薬として用いられようとしている。 ここでは、我々の研究を中心に、基礎研究としても実用研究としても期待の高いロドプシンについて紹介する。4. 上原賞受賞講演録-1光遺伝学的視覚再生の基盤ツールとなるロドプシンの開発研究1. はじめに神取 秀樹名古屋工業大学 大学院工学研究科 特別教授名古屋工業大学オプトバイオテクノロジー研究センター センター長博士(理学)【図1】 動物ロドプシンと微生物ロドプシン(a) 基本構造。αヘリックスが7回、膜を貫通した構造を持ち、第7ヘリックスにレチナールが結合している。(b) 光を吸収すると、動物ロドプシンでは11-cis型レチナールのC11=C12の二重結合が、微生物ロドプシンではall-trans型レチナールのC13=C14の二重結合が異性化する。(c) レチナールの異性化反応がタンパク質の段階的な構造変化をもたらすことで機能が発現する。 栄えある上原賞の受賞にあたり、たいへん光栄に存じます。 ご推薦いただきました日本化学会の丸岡啓二会長、選考委員の先生方、財団の関係者の皆さまに心より御礼申し上げます。 ロドプシンの研究は物理学・化学・生物学の境界領域に位置付けられますが、優れた医学の先生方が受賞されてきました上原賞を、ロドプシンで私が受賞することになるとは、驚きとともに感慨深いものがあります。 日本は伝統的にロドプシンの基礎研究が強く、世界をリードしてきましたし、若い研究者も育っています。 私の受賞講演では、ロドプシン研究者の代表として、このタンパク質分子が持つメカニズムの面白さと医療応用における大切さをご紹介できればと考えております。40

元のページ  ../index.html#42

このブックを見る