一年のあゆみ_2024年度
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 動物ロドプシンはいずれもGタンパク質共役型受容体(GPCR)としてGタンパク質を活性化することで視細胞内の情報伝達を開始する。 一方、プロトンポンプとして光をエネルギーに変換するタンパク質として見つかった微生物ロドプシンであるが、イオンを一方向に輸送する様々なポンプや、双方向に輸送するチャネル、センサー、酵素と様々な機能が明らかになっている。 私たちもロドプシンのメカニズム解明を目指す中、様々な機能の発見や創成に関わることができたが、それらを(図3a)にまとめた。 私たちが最初に行ったロドプシンの機能開発として、1アミノ酸置換によるロドプシンの機能転換を挙げることができる。 バクテリオロドプシンとクロライドポンプ・ハロロドプシンのアミノ酸の一致度は25%程度であり、それぞれの機能に最適化されていると信じられていたが、我々は1995年、アミノ酸を1つ変えるだけでバクテリオロドプシンをクロライドポンプへと機能転換することに成功した[6]。 2つのロドプシンを比較した機能開発研究という点では、動物ロドプシンと微生物ロドプシンのハイブリッドであるキメラロドプシンも挙げられる。 微生物ロドプシンを鋳型として、動物ロドプシンの細胞質側ループを挿入したキメラロドプシンは、光反応によりGタンパク質を活性化できることがわかった[7,8]。 このことからタンパク質の構造変化に共通性があることが明らかになったが、動物ロドプシンと違ってレチナールが解離しないキメラロドプシンは、後に視覚再生に用いられることとなる。 機能発見の最初の例となったのは光駆動ナトリウムポンプである(図3b)。 ナトリウムイオンとプロトンは生命活動に中心的に働く陽イオンであるが、光駆動ポンプはプロトンだけであり、ナトリウムポンプは存在しないというのがロドプシン分野の常識であった。 光吸収を担うレチナール発色団が正電荷を持つためナトリウムイオンなどはレチナール近傍に結合できず、結合できなければ光のエネルギーを使って輸送できないと考えられてきたのである。 そんな中、東大・木暮研と海洋性細菌のデータベース上に存在したロドプシンの配列の特異性に着目して機能を調べることで、光駆動ナトリウムポンプが自然界に存在することを2013年に明らかにした[9]。 光駆動ナトリウムポンプはリチウムイオンもポンプできる一方、カリウムより大きなイオンのもとではプロトンポンプになるが、東大・濡木研との共同研究により決定した構造を基盤として光駆動カリウムポンプを創成することに成功[10]、翌年には光駆動セシウムポンプの創成にも成功した[11]。 このタンパク質は福島原発などで環境中の放射性セシウムイオンを回収するための基盤技術として注目された。【図3】 ロドプシンの機能(a) 様々なロドプシンの機能に我々の発見や創成を加えた。(b) 光駆動ナトリウムポンプは基質を結合せずに一方向への能動輸送を行うユニークなポンプである。(c) 内向きプロトンポンプの創成と発見。 (d) ヘリオロドプシンの発見と構造、機能の決定。3. 新しいロドプシン機能の発見と創成光遺伝学的視覚再生の基盤ツールとなるロドプシンの開発研究(a)42

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