一年のあゆみ_2024年度
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 人間の受け取る情報の8割以上は視覚であり、それを失うことはきわめて深刻である。 網膜色素変性による失明者に対する視覚再生のためのロドプシンを用いた遺伝子治療は、現在、激しい国際競争が繰り広げられている。 ロドプシンの複雑な構造と、機能するための複雑な時空間ダイナミクスを考えると、私自身はこのタンパク質のメカニズムを正しく理解することが必須であると確信している。 多くのロドプシン研究者は動物ロドプシンか微生物ロドプシンのいずれかを専門とするが、私は分光学研究を基盤としたためか、いずれのロドプシンも研究対象としてきた。 その結果、動物ロドプシンについても微生物ロドプシンについてもそれなりの理解を深めることができた。 しかしながらロドプシンというタンパク質は遠くて深く、次々に新しい□が生まれてくる。国内外の共同研究者とともに,その□に少しでも迫ることができたらと願っている。 私は京大理・生物物理の吉澤透教授のもとでロドプシンと出会い、前田章夫教授のもとで赤外分光と出会うことができた。 ここで紹介した成果は、文献中の原著論文に現れる多くの方々との共同研究の成果であり,心より感謝いたします。 特に赤外分光に関しては古谷祐詞博士、片山耕大博士、機能の発見に関しては井上圭一博士(現東大)、GtCCR4の応用に関しては角田聡博士、細島頌子博士、キメラロドプシンに関しては慶応大医の栗原俊英博士、堅田侑作博士に感謝いたします。キメラロドプシンは動物ロドプシンのようにGタンパク質を活性化するため、高い光感度が期待される(図5右)。 さらにキメラロドプシンは微生物ロドプシンを鋳型とするため、動物ロドプシンのようにレチナールが解離せず、光反応による繰り返し応答が可能である。 実際、失明マウスの双極細胞にキメラロドプシンを発現することで室内光に相当する1013 photon(図4c)での視覚再生を達成した[26]。 キメラロドプシンはマウスの網膜で2年間も活性を維持し、網膜の変性に対する保護効果も見出されるなど、チャネルロドプシンとは全く異なるメカニズムによる光遺伝学的視覚再生が期待されている。【図5】 高い光感度を実現する光遺伝学的視覚再生のツール(左)クリプト藻から発見したGtCCR4。欧米の競合するツールと比較して、チャネルロドプシンとしての性能が優れている。(右)動物ロドプシンと微生物ロドプシンのハイブリッドとして作製したキメラロドプシン。これまでのアイデアとは全く異なる発想によるツール開発。6. おわりに45

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