一年のあゆみ_2024年度
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いた学生も、NIHからのフェローシップ支給が停止されたため進◎はじめに私は、現在米国のマサチューセッツ州ボストンにあるハーバード大学医学部附属病院Brigham and Womenʼs Hospital脳神経内科に所属する研究室に在籍しております。 今回は、ボストンの研究環境および現在の研究情勢についてご報告いたします。◎研究環境私の所属するKrichevsky Labは、ノンコーディングRNAを用いた神経疾患に対する核酸医薬の開発を中心に、基礎研究と橋体やヒトiPS細胞由来の神経細胞など、日本国内では入手が困難な貴重な研究リソースを、複数の共同研究ラボから容易に提供いただける環境において研究を行えることは、海外で研究する意義を強く感じる点の一つです。 また、私のボスは、miRNA研究のパイオニアであり、2024年にノーベル生理学・医学賞を受賞したハ ーバ ード大 学 医 学 部 附 属 病 院 の M a s s a c h u s e t t s General Hospitalのゲイリー・ラブカン教授らのグループと共に、Harvard Medical School Initiative for RNA Medicine (HIRM)のCo-directorを務めています。 ノーベル生理学・医学賞受賞者の講演を間近で頻回に拝聴できる機会もあり、日々大きな刺激を受けています。 ノーベル賞の発表があった際には、私達の研究グループも大きな喜びに包まれ、ノンコーディングRNA研究のさらなる発展に貢献していきたいという意欲が研究室内でもより一層高まりました。 オファーをくださった数ある研究室の中でこの研究室を選択して本当によかったと心から感じた瞬間でもありました。◎米国の情勢変化しかしながら、2025年1月の政権交代によりトランプ政権が再び発足してから、研究環境は大きく変わりました。 NIHグラントの配給停止、大幅な研究費削減、研究員の大量解雇、さらにハーバード大学とトランプ政権の間での訴訟が始まり、研究活動の継続が益々厳しい状況となっております。 私の周囲でも、ビザ更新が叶わなかったことで帰国を余儀なくされた研究員や、NIHグラントの打ち切りにより閉鎖されたラボがいくつかあります。 新規雇用は完全に凍結され、PhD課程への内定を得て学を断念せざるを得ない事態に至りました。 このような環境の変化の中にあって、私は幸運にも上原記念生命科学財団からの海外助成を受けており、自身の給与のNIH依存度が他の研究員に比べて低かったこと、そして自身が主導している研究プロジェクトが複数のラボから資金的サポートを受けられる規模にまで発展したことにより、研究を継続できる立場にいられることを大変嬉しく思っております。ハーバード大学を中心としたボストンのアカデミア研究者達は、定期的に集会やデモを行い、連帯感を持って互いに支え合いながら政権と対峙しています。 日本ではあまり経験し得なかった、研究コミュニティとしての強いエネルギーと連帯を日々実感しています。 このように、現在の研究環境は決して平坦ではありませんが、こうした困難な時期に得られる経験もまた非常に貴重であると感じています。 外部からの政治的・制度的圧力に屈することなく、動揺せず、淡々と、自分がなすべき研究と向き合っていきたいと考えております。◎最後に私が行っているtRNA断片を軸としたタウオパチーの研究は、近日中に論文投稿を予定しており、また複数の国際学会でYoung Memberʼs Symposia、Travel grant awarded Fellowに採択され発表してまいりました。 改めて、ご支援いただきました上原記念生命科学財団の皆様ならびに関係者の皆様に心より感謝申し上げます。Brigham and Womenʼs HospitalHarvard Medical School北 川 天 美東京大学医学部附属病院東京都健康長寿医療センター研究所老化機構部門ノーベル賞受賞者が身近にいる研究生活とその情勢変化アメリカ東海岸 Massachusetts渡し研究の両方を行っております。 神経変性疾患の患者の脳検 59 ←トランプ政権と戦うボストンのアカデミア研究者の 集会のチラシ

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