一年のあゆみ_2024年度
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います。2. 検出可能性(Detectability)に基づく 特許価値への投資理職として活動していく上で、極めて有意義な指針となると感じております。 このような貴重な経験を積む機会をいただけたのは、ひとえに上原記念生命科学財団の皆様からの温かいご支援の賜物です。 心より御礼申し上げます。ハーバード大学医学部・ヴィース研究所のGeorge Churchラボにて、脳血管研究ツールの開発に従事しております、宮脇健行と申します。 私はバイオテクノロジーの開発に強い関心があり、革新的なアイデアと技術を次々と発表している本ラボに魅力を感じ、留学を決意いたしました。 Churchラボの一つの特徴は、起業文化です。 このラボからは開発されたバイオテクノロジーを基盤に多くのスタートアップ企業が誕生しており、これまでに約50社がスピンオフしています。 本稿では、留学生活を通じて私が特に印象深く感じた2つのポイントをご紹介し、本ラボの起業Churchラボは約80名が所属する大規模な研究室です。 このような規模のラボが効率的に運営されている背景には、ポスドクや大学院生が主体的に研究テーマを設定し、プロジェクトを自ら推進している点があります。 結果として、メンバーは自身のプロジェクトに対して強い当事者意識を持ち、スピンアウト企業の多くでは、研究メンバーがそのままCEOを務めています。 研究成果を基に起業を目指す際、大きな障壁の一つは専門知識を持ったCEOを外部から確保することです。 本ラボではそのプロセスが不要となるため、これが成功の一因になっていると考えられます。 このような放任的な運営が可能である背景には、Church教授の独特なフィードバック姿勢が大きく寄与しているように思います。 教授はどのようなテーマに対しても積極的に興味を示し、否定的な意見を述べることはなく、むしろその延長線上にあるさらなる急進的なアイデアを提案してくださいます。 自らの発案に基づいたプロジェクトを進めることは、やりがいがある一方で、孤独や不安と隣り合わせでもあります。 そうした中で、自分のテーマを深く理解し、共に楽しんでくれる上司の存在は非常に大きな支えとなります。 Church教授の提供する高い心理的安全性、幅広い分野にまたがる深い知識、そして70歳を超えてなお衰えることのない前衛的な発想には、日々驚かされ、刺激を受けてヴィース研究所は、アカデミア由来の技術を基に起業やライセンシングを目指すことをミッションとした、ハーバード大学附置の研究所です。 その実現のために、研究者向けのアントレプレナー教育や、製薬企業などでのビジネス開発経験を有する人材(BDチーム)の雇用など、さまざまな取り組みが行われています。 中でも特筆すべきは、「Validation Project」と呼ばれる内部予算制度です。 研究者は年に一度、自らが開発した技術の種をもとに、他の研究者やBDチームと2〜4人程度のチームを組み、この予算に申請します(このチームが後に新会社の中核メンバーとなります)。 審査において重視されるのは、開発技術の特許性の強さです。 特許は、第三者が無断で技術を使用した場合にその行為を検出し、訴訟によってその権利を主張できることが前提となります。 したがって、技術が「誰かに使われたことを検出できる」こと、すなわち検出可能性(detectability)が極めて重要とされます。 この観点から、たとえ有用であっても、ソースコードが公開されている機械学習技術や、容易に再現可能なスクリーニング技術などは、特許価値が低く評価されることがあります。 この点は、「新規性」や「簡便性」を美徳と考えていた私にとって、非常に新鮮で、目から鱗となる体験でした。本留学を通じて得られたこれらの学びは、将来的に私が研究管Harvard Medical School, Wyss Institute宮 脇 健 行理化学研究所 生命機能科学研究センターバイオインフォマティクス研究開発チーム起業文化を育むしくみアメリカ東海岸 Massachusetts文化の背景についてご報告いたします。1. ポスドク・大学院生がプロジェクトを牽引し、 そのままCEOとなる文化 64マンモス復活を目指しているChurch教授の70歳記念サプライズパーティーで用意されたケーキ

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