一年のあゆみ_2024年度
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ボに留学して一皮むけたいという思いに駆られました。2024年4月より、米国ピッツバーグ大学形成外科に研究留学に来ております。 ピッツバーグはペンシルベニア州にあり、フィラデルフィアに次ぐ州内で2番目に大きい都市です。 人口約30万人程度と適度な大きさで、街は川に囲まれ、それに大小300の橋が架かっており、別名city of bridgeと呼ばれています。 現在インフレ真っ只中の米国において、西海岸やニューヨークといった大都市圏に比べて物価もマイルドであり、それでいてとても治安が良く、家族連れの私にとってはとても暮らしやすい街です。私は、臨床で末梢神経再建(顔面神経麻痺)を専門の1つにしています。 神経再建を行う際、体の別の場所から神経を採取し移植する自家神経移植がゴールデンスタンダードですが、採取部の犠牲が問題となります。 例えば腓腹神経を取ってくると、患者さんは術後に足のしびれや痛みに悩まされることになります。 そのために人工神経が開発されましたが、どうしても自家神経移植よりも成績が劣ってしまいますので、人工神経に何らかの要素をプラスして成績を向上させるという研究が現在の主流となっています。 人工神経は日本でも臨床使用可能ですが、米国ではその選択肢が桁違いに多く(間違いなく世界一)、必然的に研究もactiveとなります。ピッツバーグ大学形成外科は複数のラボを擁しており、私の留学先はKacey G. Marra教授率いるNerve Regeneration Labとなります。 彼女はPhDとして長年末梢神経再生に関する研究を行っており、その中で自身の名を冠した人工神経を開発して、ベンチャー企業を立ち上げ製品化しています。 彼女の人工神経は、生分解性プラスチックとして知られるPCLをベースに、特殊な手法を用いて成長因子(GDNF)が徐放されるよう改良を施し、自家神経移植と□色ない再建成績が期待できるまでに至りました。 現在FDA approvalを取得し、臨床試験を行っている段階ですので、将来的に日本でも使用される日が来るかもしれません。 そのような話を聞くと、神経再建に携わる人間としてはぜひ、彼女のラしかし、金銭という問題に直面しました。 というのも、米国では形成外科は超絶人気なので、無給でも自然と人が集まります。背景には、米国では形成外科レジデンシーの枠がとても競争率が高く(本年度は約15倍)、マッチ出来なかったMDたちはひとまず研究者として働き、次年度に再応募するという慣習があります。 私も無給で良ければと言われ途方に暮れていましたが、上原記念生命科学財団よりご支援を頂き、留学を実現することが出来ました。 その他、お世話になった全ての皆様に、この場を借りて深く御礼申し上げます。 留学先で得た経験を元に、微力ながらこの分野の研究発展に貢献できるよう精進して参りたいと考えております。ピッツバーグ大学医学部北 野 大 希淀川キリスト教病院形成外科神戸大学大学院医学研究科形成外科学講座ピッツバーグ大学形成外科アメリカ東海岸 Pennsylvania 66←ラボから眺める雪景色のピッツバーク ラボのある15階からは、隣接する附属病院、 その奥にはモノンガヒラ川と ワシントン山が見えます。

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