一年のあゆみ_2024年度
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私は2022年10月よりベルギー王国ルーヴェンカトリック大学 (KU Leuven) 精神神経科のLaboratory for Translational Neuropsychiatry (LTNP) に留学しています。私自身は日本で精神科医として働く中で、電気けいれん療法 (electroconvulsive therapy: ECT) という、全身麻酔下で頭部を通電し脳内に発作を誘発する治療が多くの精神疾患、特に高齢者のうつ病に非常に有効であるという事実に興味をもち研究を始めました。 精神科の治療は偶然発見されてきた経緯があありません。博士課程においては高齢者のうつ病に対するECTの作用機序メカニズムの解明に向けた脳MRI研究を行っていました。 国際学会参加時に、現在の留学先のPIであるVandenbulcke教授とラボメンバーにお会いするチャンスがあり、同じ興味を持ちつつ若干違ったアプローチをしていたことで意気投合し、運良く留学につなげることができました。ラボは数年前にいくつかのチームが統合され、博士課程の学生も10名ほど在籍しており、テーマも高齢者のうつ病のPET-MRI研究、前頭側頭葉変性症の社会認知研究、ECTの臨床研究、強迫症に対する脳深部刺激療法研究など多岐に渡っています。私は、日本で行なっていた研究をより発展させるべく、脳の微細構造を調べる脳画像(タウ蛋白やシナプス密度を測定するPET画像、脳微細構造を調べるMultishell diffusion-weighted imaging)の解析を学び、高齢者のうつ病と認知症の相違点に関する研究を進めています。 また、ヨーロッパでは周辺国・施設との共同研究も盛んであり、ラボのメインの仕事以外にもノルウェーやオランダとのECTに関連した共同研究プロジェクトにも携わらせていただいています。ベルギーは周囲をフランス、ドイツ、オランダ、イギリスと大国に囲まれた小国で、面積は関東地方、人口は東京と同定度の規模感です。 私の生活しているルーヴェンは大学都市でもあり学生が多く、治安も良く、生活が非常にしやすい街です。 留学当時は平日の18時にはスーパーが閉まり、日曜日はお店も閉まるというヨーロッパ特有のカルチャーにショックを受けていましたが、今ではもう慣れて東京とは全く違う心穏やかな日常を楽しんでいます。 街中も14世紀頃の建物が残っていたり、写真にあるような美しい景観に触れられたりと、いつも癒されています。 また、周辺の国にも電車で訪れることもできますし、さらに周辺のヨーロッパ諸国にも数万円の旅費で行けるという環境から、ヨーロッパ旅行も存分に楽しむことができています。最後になりましたが、この度は留学資金のご支援をいただき、この場を借りて上原記念生命科学財団の関係者の方に厚く御礼申し上げます。KU Leuven, Leuven Brain Institute高 宮 彰 紘慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室ルーヴェン・カトリック大学留学記86←ルーヴェンの中心にある市庁舎 ヨーロッパ Belgiumり、このECTもなぜ種々の精神症状に有効なのか明確な答えは

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