留学中の所属先“Pesticide team 2(農薬チーム)”には、約50人の研究者・技術者が在籍しており、そのうち約半数がオランダ人、残り半数はEU各国、南米、アフリカなどの出身でした。長らく日本で仕事をしてきた私にとって、国籍も出身も母国語も異なるメンバーが1つのチームとなって仕事をし、会議や実験室で多言語が飛び交う環境は、かなり衝撃的なものでした。メンバーのバックグラウンドが多様であるため、文化や習慣の違いに驚くことはもはや日常茶飯事。一方で、ひとたびScienceの話になれば全員で対等に意見を出し合い、チームで同じ方向を向いて全速力で仕事を進める組織としてのパワーは、凄まじいものがありました。留学前には、慣れない環境の中、英語で研究ができるのだろうかと不安もありましたが、研究の方針や実験についてのディスカッションは日常会話よりもむしろ楽なほどで、国や場所は違ってもScienceの根底は変わらないこと、自身もScienceという大きな歴史の流れの中に立っていることを強く実感しました。また、チームメンバーは皆、オープンマインドなのが印象的でした。必要以上に干渉しない一方で、困った時には互いにアドバイスを求めて助け合う絶妙な距離感は、幼い頃から“他の人と違うことが当たり前”な環境を通じて培われるものなのかもしれません。日本から単身で飛び込んできた私に対しても、皆が惜しみなく知識や技術を教えてくれましたし、逆にアドバイスや意見を求められることもありました。チームメンバーとは、それぞれの出身国の料理を振る舞うパーティーをしたり、お子さんの誕生日会にお呼ばれしたり、一緒にどこかへ出かけたりと、終業後や休日にも多くの交流がありました。オランダの緑豊かな街を楽しみながら、時には今後の人生プランや家族計画など、かなりプライベートに踏み込んだ話をすることもあり、ヨーロッパの人々にとって、職場のメンバーは第二の家族といった存在なのだなと感じました。留学先について私は2023年4月より半年間、オランダ王国ヘルダーランド州にあるWageningen University & Research (WUR) のWageningen Food Safety Research (WFSR) に研究留学をさせていただきました。留学中には、EUやアメリカにおいて用いられている残留農薬分析法“QuEChERS法”に関する研究など、食品安全に関する3つの研究課題に取り組みました。オランダではオランダの国土面積は九州と同程度にも関わらず、その農産物輸出額は約1000億USドルと、アメリカに次ぐ世界第2位の規模を誇っています。これは1990年代より、EU圏内の大消費地への農産物の供給を強化してきたオランダ政府の戦略によるものですが、その背景にあるのが、Wageningenにある食の科学・ビジネスに関する一大集積拠点“Food Valley”の存在です。WURはFood Valleyの中核をなす研究機関であり、農業・食品科学分野における大学ランキングで世界第1位となっています。緑豊かな広大なキャンパスには、WURの各組織の研究施設があるだけでなく、政府直轄の研究所であるWFSRや、ユニリーバなどの企業の研究開発拠点が点在しており、産学官が一体となって研究開発に取り組んでいます。WFSRでの研究生活102山㟢 由貴Wageningen Food Safety ResearchWageningen University & Research(国立医薬品食品衛生研究所食品部)風車村の夕焼けオランダでの研究生活を振り返って
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