36て確立されています。今後も神経変性病因タンパク質の抑制を通じたより有効性の高い新規治療法の開発と実用化が大いに期待される卓越した研究業績であります。一方西川博士の褒賞対象となりました研究のタイトルは「がん遺伝子異常がもたらす免疫抑制機序の解明と治療への応用」です。がん免疫は、PD-1阻害剤などの成功により一挙にがん研究・がん医療の中心に躍り出ましたが、臨床的な有効性は未だ限定的で、がんと免疫が対峙するがん組織の微小環境での詳細な分子間相互作用の解明が喫緊の課題でありました。生検組織の様な微量の検体から生きたまま免疫細胞を採取し、詳細な免疫解析を可能にする技術を独自に開発し、網羅的免疫応答解析およびゲノム解析を融合した新たな「免疫ゲノム研究」を創出されています。これにより、がん免疫の分子基盤を次々と解明し続け、がん細胞が持つゲノム異常が免疫細胞の機能制御に直接かかわるという「Immuno-genomic cancer evolution:免疫ゲノムがん進化説」という新たな仮説を提唱し、世界のがん免疫学を牽引し続けておられます。PD-1阻害剤治療での患者層別化バイオマーカーの発見と解析技術開発による臨床への応用、腫瘍浸潤CD8+T細胞および制御性T細胞におけるPD-1の発現機序および機能の解明、がん細胞のゲノム変異による免疫制御環境構築の発見は特筆すべき研究成果であります。基礎研究としての発展はもとより、臨床診断機器の開発やがん免疫ゲノムプレシジョン治療への展開といった臨床応用への発展が期待される、世界をリードする革新的な研究業績であります。以上、今回選ばれましたお二方は、それぞれ独自性のある研究を展開して来られました。お二方の研究が、益々の発展を遂げられることを心からお祈り申し上げます。続きまして、助成金の選考の結果についてご報告申し上げます。先ず特定研究助成金でございますが、本年度は期間3年の「ヒューマンバイオロジーによる革新的医学研究」というテーマで募集し、20件が採択されました。次に500万円の研究助成金ですが、今年は435件の応募の中から80件が採択されました。最近2年以内に独立した研究者の立ち上げを援助する研究推進特別奨励金は、31件の応募の中から、10件が採択されました。若手研究者を対象とした研究奨励金ですが、250件の中から、90件が採択されました。続きまして海外留学助成でございます。まず海外留学助成金ですが194名の応募の中から、55名が、若手海外留学支援金は119名の応募の中から、35名が採択されています。またこの中でも卓越した応募者を2年支援する留学助成に関しては、9名が選ばれました。この結果併せて90名の若者が海外留学支援を受けることになりました。上原財団の支援のもと、この方達が海外で大きく羽ばたいてほしいと願うものであります。一方、来日研究生助成は10件、国際シンポジウム開催助成金は24件が決定されました。本年度も各選考にあたって選考委員各位には大変なご尽力を頂きました。選考委員会議長として各委員のご助力に深く感謝する次第であります。さて、科学研究の目的は、私は、知の地平の開拓と人類の健康と福祉に貢献することと思っております。そして非常に幸いなことに、生命科学研究はこの両者が自然とつながっており、研究者個人の知的好奇心に基づいた科学研究を推進することが、まっすぐに人類の健康に結びついているのではないかと思います。本日、上原賞を受けられる両博士の研究もまさに知の地平の開拓と人類の健康の増進に多大な貢献をするものとなっています。両博士は、あるいは研究当初から人類の健康並びに疾病の克服という高邁な
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