一年のあゆみ2023
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38上原記念生命科学財団は、昭和60年(1985年)に発足して以来、今日まで39年間に11,500名を超える方に対して、およそ371億円の研究助成をしております。多くの研究者が本財団の助成を受け、励まされて研究を推進し顕著な成果を上げてきました。公的研究資金が必ずしも潤沢でない中、本財団の研究助成事業は、質、量ともに他の追随を許さないもので、多くの優秀な研究者からご応募いただき、極めて質の高い研究助成事業と評価されています。また、近年、基礎研究より応用研究が評価され、研究費の配分が応用研究に偏る傾向が強くなっていますが、上原記念生命科学財団では、研究助成対象領域を4領域に分けて募集が行われており、A=健康科学・薬学化学、B=基礎医学、C=臨床医学、D=融合領域として、これまで特定の分野に偏らない研究助成を継続されていることは特筆すべきことであります。また海外留学助成金は、年齢に応じた海外留学助成、若手海外留学支援金で併せて90件という、公益財団では群を抜く件数の留学助成を行っていることも、これから海外留学を志す若手研究者の力添えになっているように思います。私、個人的には財団の留学助成金の恩恵には預かりませんでしたけれども、上原財団の特徴は手厚い海外留学助成金、支援金にあると思っています。私上原記念生命科学財団の上原賞を受賞された岩坪 威博士、西川 博嘉博士、そして、290件の各種助成金を受けられた皆様に対して心からお祝い申し上げます。特に、岩坪博士、西川博士におかれましては、生命科学分野を切り拓く卓越したご業績をあげられ、上原賞を受賞されましたことに対して心から敬意と祝意を表します。は医学部を卒業して臨床医となりましたが、内科の医局に入って2年もしないうちに海外に飛び出してしまいました。結果的に、現在の研究の礎となるような多くの経験を得ることができたことは幸いでしたが、こうした経験から若い人たちには機会があればぜひ留学してほしいと考えてきました。私の研究室の出身者には上原財団のご支援で留学した研究者も何名かおり、財団には大変感謝しています。海外留学では日本で研究するのとは異なる、貴重な体験をすることができます。私の場合は1985年から1995年まで間、通算8年間のスウェーデンへの留学でしたが、私が留学した研究室はスウェーデンだけでなく、ドイツ、フランス、ギリシャ、オランダ、ウクライナなどのヨーロッパ諸国やアメリカなど、世界各国の研究者が集まっていました。彼らと毎日のようにディスカッションをすることができたことは私にとって貴重な体験となりました。また、私の在籍した研究所には世界から多くの著名な研究者が来訪されました。来客があると私たちは順番にそれぞれ30分ほどずつ、普段でしたら言葉を交わすこともできないような研究者と話をするわけですが、その結果多くのことを学ぶことができました。興味深かった話を少しさせていただきます。1990年代の初め、30代の私はTGF-βの受容体の研究で、競争している研究グループに負けないようにと、必死で実験をしていました。この頃、ニューヨークから来訪された著名ながん免疫研究者Lloyd Old博士に自分たちの研究成果を紹介する機会がありました。私たちの研究分野ではcompetitorが多く、負けないように必死で頑張っていると話したところ、Old博士に「あなたと競争している研究者はあなたのcompetitorではなく、その分野のcolleagueと考えるべきですよ」と微笑みながら言われました。当時の私は事情が飲み込めずにいましたが、その後、competitorと考えていた研究者たちとは、競争しつつも互いに学会で何度も会い、サンプルを分け合い、時には共同研究者として論文をご来賓祝辞宮園 浩平 理事(理化学研究所理事、東京大学大学院医学系研究科卓越教授)

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