一年のあゆみ2023
55/112

53果を達成できた理由としては(1)対象とする病期を従来の軽症-中等症認知症期から、MCI期から軽症認知症期までを一括して含む早期ADにまで早めたこと、(2)18Fを組み込んだPET診断薬の実用化が進み、治験においてアミロイドPETを全例に実施できるようになり、臨床診断のみでは20%を越えて混入する非AD症例の除外が可能となったこと、(3)ARIAの自然歴とマネジメントの方法が確立されたことにより、抗体が薬効を発揮するために必要な十分な用量の薬剤の使用が可能となったこと、などが挙げられる。ADに対する薬剤治験の実施数が年々増加するとともに、ADNI等のアカデミアによる観察研究との間で適格な被験者リクルートの競合が高頻度に生じるようになった。とくに、A4試験をはじめとする無症状のプレクリニカル期ADを対象病期とする予防治験が本格的に開始された13)ことから、アミロイド病理を効率的に診断する体制が必須となった。この目的で、治験と研究を両立させつつ推進することを目的とする「治験即応コホート」(trial ready cohort)の構築が世界的に進んでいる。我々がAMED研究として実施中のJ-TRC研究では、第1段階の「J-TRCウェブスタディ」においてインターネットを介して参加者を募集・登録し、デジタル認知機能評価を行うとともに、基本情報の収集を行う14)。続く第2段階として来院して行う「J-TRCオンサイト研究」では、preclinical AD cognitive composite (PACC)などの、プレクリニカル期ADにおける認知機能変化を鋭敏に定量する対面型心理検査と、PETによる脳アミロイド評価を行い、プレクリニカル期ADの人のコホートを構築するとともに、将来に向けたAβ42やリン酸化タウなどの血液バイオマーカーによる脳アミロイド予測能の研究を推進している。薬剤治験への参加を希望され、かつ適格性を満たす参加者には、希望に応じて治験に関する情報を提供し、参加を支援する(図5)。2023年12月時点でJ-TRCウェブスタディには14,000名、第2段階のJ-TRCオンサイト研究には650名が参加、うち40数名が治験スクリーニングに進み、10数名がランダム化に至っている。以上のごとく、認知症発症期の前後で、軽症の認知機能低下を有する人(早期AD)を対象に実用化が進んでいる、レカネマブに代表される抗体薬の臨床実用は、本邦でも2024年初頭から本格化するものと思われるが、その安全な使用を保証し、実臨床における効果を検証するための臨床研究を産官学の連携により実現することがまず必須となる。今後血漿リン酸化タウ等の新規バイオマーカーを駆使して、アミロイド上昇の疑われる人のプレスクリーニングを図ることは、プレクリニカル期を含む今将来的なAD治療薬開発を成功に導くために重要と考えられる。また、Aβやタウの凝集・蓄積過程のみならず、脳からのグリアリンパ系などを介するクリアランス機構15)や炎症・修復過程16)などの新規治療薬標的機構の研究もさらに重要となるものと考えられる。図5.J-TRC研究の概要図5.治験即応コホートの樹立と今後のAD予防・治療薬実用化への展望

元のページ  ../index.html#55

このブックを見る