ボス、Betty Diamondの口癖に「Go for the jugular!」があります。核心をつく仮説を立てろ、仮説を直接立証できるような実験を組めということです。米国では全成人へのワクチン接種が始まったが、日本では医療従事者への接種が始まったばかり……あたりの2021年に渡米し、あっという間に3年が経ちました。多くのことを与えてもらっています。技術や知識はもちろん、良い仮説の立てかた、プロジェクトの進め方、グラントや論文の書き方など。まだまだ学び途上のものばかりですが、ろくに英語の喋れないポスドクに根気よく付き合い、機会をくれるボスには感謝しかありません。これらももちろん貴重な財産なのですが、しかしここで経験した一番の「核心」は仲間を得たことと、家族に支えられたことです。私はボス以外のメンバーにもとても恵まれました。いつでもディスカッションできる以外にも、良い結果がでたら共に喜び、愚痴を言い合い、将来のキャリアを相談できるような同僚たちに出会えたことは幸運です。ニューヨークという土地柄もあってかポスドクや学生たちは世界各国から集ってきます。異なる文化的背景、異なる経験の人と交流することに当初は身構えましたが、結局大事なことは日本の人付き合いと何も変わらないのだと気が付いてからはすっと楽になりました。そして彼ら・彼女らの存在に、成果面でも精神的にもとても助けられ、多様性のあるチームで働くことの重要性を日々感じています。また、米国生活で家族の大事さも強く実感しました。渡米当初、英語が全くわからないのに現地の学校に放り込まれた子供たちにはものすごいストレスを与えてしまいました。「小さい子は難なく適応するから大丈夫」と聞きますが、我が家の場合は決してそんなことはなく、本人なりに苦労しながらゆっくりと溶け込んでいきました。私の都合で本当に申し訳なかったです。しかし家族がいなかったら私はがんばれなかったでしょうし、辛いことがあっても家に帰れば気持ちが切り替えられるというのはとても大きいです。私はいま自分なりのキャリアを構築中です。ボスのようなPIになりたいとも、ずっとグラント獲得のプレッシャーにさらされ続けるのは嫌だとも思います。しかしこれから自分がなにを選択していくのにせよ、これらの「核心」は影響を与え続けるでしょう。留学先で業績を出すことは大事です。同様に、なにか自分の精神に得るものがあることも、大きな成果なのかもしれません。末筆になりますが、助成してくださった上原記念生命科学財団の皆様、また選考に関わった全ての方に厚く御礼申し上げます。超インフレーションと歴史的円安のなか、本当に助かりました。素晴らしい機会を与えてくださった本助成がこれからも末永く続くことを祈念しております。71佐藤 泉Institute of Molecular Medicine(筑波大学医学医療系膠原病・リウマチ・アレルギー内科)自宅そばの公園からGo for the jugular!...But where is it, anyway?The Feinstein Institutes for Medical Research
元のページ ../index.html#73