この度、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所への留学について報告させていただきます。私は2023年4月から同施設のHimisha Beltran研究室にお世話になっております。Beltran先生は神経内分泌前立腺癌の分化可塑性を世界で初めて報告しており、その分野で世界的に有名なPIです。Beltran先生と私のメンターは今回の留学以前から共同研究を行っており、私も参画させていただいておりました。昨年夏にBeltran先生が新しいポスドク研究員を探しているとのことでメンターに連絡があり、私を紹介いただいた次第です。入職後、前立腺癌オルガノイドの培養手法を学びながら、Beltran先生と協力して研究テーマを具体化するための計画を練りました。興味と実行可能性を考慮しながら、神経内分泌癌の発生に必要とされると考えられているものの、具体的な関与が不明確だった転写因子群の解析を行う方針としました。予備的実験を重ね、研究の枠組みが確立されたのは留学後半年近くが経ってからでした。留学当初、研究室で次々と一流の学術誌に載るような重要な成果を挙げているのには何か秘訣があるのだろうと、初めは考えていました。しかし、実際に現地で学んでみると、皆が地道に、期待した結果が出なくとも辛抱強く研究に取り組んでいることに驚かされました。ア2022月7月より、米国ボストンのBeth Israel Deaconess Medical Center(BIDMC)、Harvard メリカではプライベートな時間を大切にしていて、午後5時には皆帰宅し、週末はしっかり休む、という印象がありますが、少なくとも私のいるフロアでは様子が違うようです。午後7時あたりまでは活発に研究している方が多く、土日にも誰かしらが作業しています。Medical Schoolに研究留学させていただいております。メインの研究テーマ以外で大きな仕事として、前立腺癌患者さん逝去後解剖時の腫瘍検体解析に関わっております。アメリカ合衆国の大規模病院では、病理解剖時に複数の病巣から検体を採取し、遺伝子・タンパク質などの解析を行う“Rapid autopsy”が一般的に行われています。Rapid autopsyの主目的はゲノム・エピゲノム・mRNA/タンパク発現を解析し、前立腺癌の分化可塑性や不均一性を明らかにすることですが、私はその残余検体を用いた前立腺癌オルガノイドの樹立に従事しています。病理医の先生方の協力を得て、必要な検体を収集し、その後、ラボで検体の整理や処理を行い、全部で6−8時間程度の作業になります。土日や夜中に呼び出されることもままありますが、患者さん・ご家族や病理チームの多大な協力のもと成り立っている研究であり、その重みと責任を常に胸に刻みながら、貴重なデータが私たちの研究の向上に寄与することを願って精一杯取り組んでいます。アメリカで新しい研究を始めることができたのは、多くの方々のご支援のおかげであることを心から実感しております。この留学機会を提供していただいた練馬総合病院の柳川達生先生、慶應義塾大学泌尿器科学教室の大家基嗣先生、Beltran先生をご紹介いただいた小坂威雄先生をはじめ、ご支援をいただきました諸先生方に深く感謝申し上げます。また、本留学に際してご支援をいただきました上原記念生命科学財団の皆様に厚くお礼申し上げます。ボストンはハーバード大学やマサチューセッツ工科大学などの歴史ある大学を有する世界有数の学術都市であり、伝統的な街並みが残存する美しい都市でもあります。治安や気候も良くて、日本から来ても非常に生活しやすい都市だと思います。冬はそれなりに寒くなりますが、北海道から来た私にとっては降雪量が少ないことがとても過ごしやすいポイントでした。私の在籍しているGeorge C Tsokos labは主に膠原病の一つである全身性エリテマトーデス(SLE)を研究テーマとしています。現在は各国から集まったポスド74本郷 周狩野 皓平Dana-Farber Cancer Institute(練馬総合病院泌尿器科)Beth Israel Deaconess Medical Center Harvard Medical School(北海道大学大学院医学研究院免疫代謝内科学教室)ダナ・ファーバー癌研究所へのボストン留学記留学報告
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