クが9人とインストラクター3人が在籍し、日々研究に励んでいます。出身地は日本、中国、インド、サウジアラビア、スイス、ギリシャ、ブラジルと多様性に富んでおり、日常の何気ない会話にも文化の違いを感じています。日本では臨床と研究の両方を並行して行っていた自分にとって、研究だけに集中できる環境は非常に貴重であり、充実した日々を過ごしています。渡米前の大きな懸念点はやはり英語でのコミュニケーションでした。来たばかりの頃は簡単な会話にも非常に苦労しましたが、英語力というよりも度胸の問題だった気がします。とりあえず何か伝えようと話してしまえば、皆理解しようとしてくれます。ラボには英語を母語とする人がいないので、アクセントも様々で聞き取りにくい英語を話す人もいますが、だからこそお互い理解しようと気を遣い合うので、コミュニケーションで困ることは少なかったです。また、当時6歳・4歳と幼い子供2人を連れての家族での海外移住ということで、その面でも若干の不安がありましたが、通っている現地の小学校は英語を母国語と私はハーバード大のMassachusetts General Hospital(MGH)脳神経外科に留学中です。物価が極めて高いボストンでの生活は困難なこともありますが、上原記念生命科学財団からの海外助成のおかげで研究に没頭した生活を継続することが出来、心より感謝申し上げます。私の所属しているCahillラボは、脳腫瘍の中でもイソクエン酸脱水素酵素(IDH)の点突然変異のある神経膠腫に関する基礎的研究と臨床的研究を行っております。私のボスのCahill博士は脳外科医でありながら、直近の過去数年間においても世界のトップジャーナルに名を連ねる科学者でもあります。彼との週1〜2回のミーティングでは、基礎研究は常に仮説通りに進むわけではないため、研究の方向性を大胆に変える必要がある場合や、ネガティブデータであっても重要なメカニズムのしない生徒へのサポートが充実しており、同じく研究留学や駐在で来られている日本人家族も多く、安心して学校に通わせることができました。聞いていた話ではありますが、子供の英語力上達の速さは目を見張るものがあり、恥ずかしながら日常会話に関してはあっという間に抜かされてしまいました。子供の性格等にもよると思いますが、ある程度年齢が小さければ、あえて渡米前に英語を勉強させる必要はないのかもしれません。解明につながることを学んでおり、得るものの多い毎日です。私のプロジェクトも方向性を何度か大きく変更し、動物実験では5ラウンドの条件検討を経て6ラウンド目で良好な結果を得て、現在は論文執筆中です。In vitroの実験でさえ、薬剤の添加や放射線照射の濃度、時間、タイミングなど、組み合わせが無限にあり、最適解を見つけるのに根気と時間がかかります。また、細胞や動物の世話が土日や深夜、早朝に必要なこともあり、時には苦労も感じますが、新しい発見につながる時の喜びのために研究に励んでいます。特に2023年末は、動物実験が腫瘍の増大のタイミングでクライマックスを迎え、大晦日や元旦も実験室で過ごしました。今回の留学では、研究のみならず、言語・文化・民族・宗教など、おそらく日本から出なければほとんど考えなかったであろうことを考える良い機会になりました。また、アメリカに住むことで、旅行では見ることのできないような良いことも悪いことも含めて経験し、同時に日本を外から見てみることで、日本にいたら気がつくことのできなかった日本の素晴らしさや足りない点も認識することができたと思います。最後になりますが、留学に際してご支援いただいた上原記念生命科学財団の皆様に心より感謝申し上げます。日本の医療に少しでも貢献できるよう、これからも精進して参ります。コロナ禍が落ち着いたことに伴い、これまで希薄だった人間関係が大きく広がりました。MGH脳外科の歴代部長や世界の著名な科学者との会食の機会に恵まれ、社会的な交流が充実しています。また、連休を利用して多国籍メンバーでスキー旅行に出かけたり、サンクスギビングやクリスマスは彼らの実家に招待してもらい、海外の文化に触れています。これらは、幼少期に米国で過ごした時の受け身の視点とは全く異なり、非常に充実した経験になっています。また、移植外科医の友人から、人手不足のため緊急手術の助手を務めてほしいというオファーを受け、公共事業の一環でプライベートジェットによりオハイオ州まで75北川 陽介Massachusetts General HospitalHarvard Medical School(東京大学医学部脳神経外科)国際的な研究環境で学ぶ:IDH変異型脳腫瘍への探求
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