2022年4月より、University of Massachusetts(UMass)Chan Medical SchoolにてPostdoctoral Associatesとして働いております、木庭乾と申します。この度は2年間ご支援いただいた上原記念生命科学財団の皆様に御礼を述べさせていただくとともに、自身の経験を共有することで留学を考えている方々の参考になればと思い、寄稿させていただくことといたしました。勤務先であるSchafer laboratoryはNeurobiology Departmentの所属であり、脳内グリア細胞による神経ネットワークの制御機構の研究を行っています。開設から10年に満たない若いラボではありますが、PIであるDorothy Schafer博士が昨年テニュアとなったこともあり、この数年でポスドク6名、PhD学生5名、技術員4名を抱えるDepartment内でも有数のラボへと発展を遂げつつあります。ラボがあるUMass Chan Medical Schoolはボストンからニューヨーク側に80kmほど離れた場所にあり、程よく田舎で家賃も安く治安もそこそこ、休日には都会に遊びにも行ける立地でとても生活がしやすいです。私は学生の頃から留学に対する憧れがあったもののなかなか行動に移せずにいたのですが、コロナ禍で希望者の少ない今がチャンスと一念発起し、留学への一歩を踏み出しました。また、留学を機にそれまで携わってきた免疫学から予てより興味のあった神経生物学へと研究分野を変えることにしたため、何のコネクションもない状態で留学先を探すことになったのですが、当時最も興味深く感じた論文の責任著者である今のボスにCVを送ったところ、目論見通りコロナ禍で人員の流動性が落ちていたことが好機となったのか、面識もなく分野外からの応募である自分に興味を持ってくださり、何とか現在のポジションを得ることができました。免疫学と神経学では使われる技術や研究の進め方に違いがあり開始当初は戸惑いも多くありましたが、逆に業界の新参者として誰に何でも聞ける立場であったことが功を奏し、この2年間は新しい技術を学びながら楽しく過ごすことができました。今のラボは研究員も学生も各々が独立したプロジェクトを持つスタイルなのですが、私もボスと相談しながら新しい研究テーマを立ち上げるところからスタートし、時間はかかってしまっていますが高いモチベーションで取り組むことができています。私は今でも英語が苦手で、神経生物学の知識も不十分ですが、巷でよく言われているように、アメリカは学生・研究員といった立場の違いや年齢・性別の違いを気にしない文化と隣人を愛せよという博愛主義的な考え方が社会に浸透しているため、自分から話しかける積極性さえ振り絞ることができれば誰かが助けてくれてどうにかなる、ということをいろいろな局面で実感しています。それも踏まえて自分が今思っていることは、もし留学したいモチベーションがあるのなら色々な不安を一度忘れて飛び込んでみるのも一つの人生の切り開き方であるということです。環境が変われば自ずから自分自身も変化し強制的に成長できると思うので、その変化を楽しみながら挑戦することに意味があると思います。最後になりますが、留学開始から2年もの間ご支援くださった上原記念生命科学財団の皆様に深く感謝いたします。ご支援のおかげで、テーマの立ち上げという試行錯誤が必要な時期に不安なくのびのびと取り組むことができました。また、留学に際し多くの先生方にさまざまな形で手助けをいただきましたことも重ねて御礼申し上げます。ご推薦くださった茂呂和世先生、小安重夫先生、宮島篤先生をはじめ、留学に向けた最初の一歩を踏み出すために手を差し伸べ、背中を押してくださった北見俊守先生に心よりの感謝を申し上げます。79木庭 乾UMass Chan Medical School(理化学研究所生命医科学研究センター自然免疫システム研究チーム)研究棟から眺める夕暮れのUMassWorcesterでの新たな研究生活
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