私は、2023年4月より米国テネシー州ナッシュビルのバンダービルト大学医療センター、腎臓・高血圧部門のVolker Haase Labに留学し、ミトコンドリアの電子伝達系機能が腎臓の病態生理に及ぼす影響について研究しています。渡米前まで、ナッシュビルという街やバンダービルト大学についてはほとんど知識がありませんでした。テネシー州は、米国南部に位置し、日本と同様に豊かな四季があり、比較的温暖な過ごしやすい地域です。ナッシュビルはカントリー・ミュージックの聖地とされ、楽器メーカーのギブソンが本社を置き、若きテイラー・スウィフトがキャリアの初期を過ごしました。市内には、ダウンタウンを中心に100以上のライブハウスがひしめき合う、別名“Music City”です。日系企業の進出も多く、地元のNFLチーム、テネシー・タイタンズの本拠地は“ニッサンスタジアム”、NHLチーム、ナッシュビル・プレデターズの本拠地は“ブリヂストンアリーナ”と、日本との繋がりを街の各所に感じることができます。米国南部の人々の気質を表す言葉の一つに“サザン・ホスピタリティ”があるように、親切で温かい人が多い印象です。都市部に位置するため、大学周辺の家賃は高めですが、光熱費やガソリン代はさほど高くなく、都会と地方の良さを併せ持つ、暮らしやすい街だと思います。バンダービルト大学は、ナッシュビルの中心地近くに位置する私立大学で、2023年に創立150年を迎えました。多種多様な花や木々がある美しいキャンパスには、全米有数の規模の大学病院、小児病院、退役軍人病院、多数の研究施設があり、米国南部の医学研究の拠点の一つです。腎臓・高血圧部門には、15人以上のPrincipal Investigatorが在籍し、Labの垣根を越えた共同研究も盛んに行われています。Haase Labは腎臓における低酸素応答や酸素代謝の研究を得意としており、疾患モデル動物や細胞の一般的な遺伝子・蛋白発現解析に加え、代謝フラックス解析、メタボローム解析やシングルセルおよび空間トランスクリプトーム解析などを駆使し、腎臓病の発症や進展における代謝の変化について、より広く・深く理解しようと試みています。慣れないバイオインフォマティクスの領域に足を踏み入れ試行錯誤の毎日ですが、ここで研鑽を積み少しでも専門性を高めたいと思っています。そして将来的には、内科医としての専門領域である糖尿病や内分泌疾患における腎臓の代謝の役割について、新規治療につながる発見ができればと夢見ています。最後に、ともに渡米してくれた家族、留学の機会をいただいた旭川医科大学内科学講座病態代謝・消化器・血液腫瘍制御内科学分野の諸先生方、そして今回の助成金を授けてくださり、受け入れ研究機関との信頼関係の構築、余裕を持った生活の立ち上げや申請した研究内容へのエフォートの集中を強くサポートしていただいた上原記念生命科学財団の皆さまに心より感謝申し上げます。85別所 瞭一Vanderbilt University Medical Center(旭川医科大学内科学講座病態代謝・消化器・血液腫瘍制御内科学分野)Haase LabがあるMedical Center Northの外観ナッシュビルでの研究生活
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