一年のあゆみ2023
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この度は、年報「一年のあゆみ」への寄稿の機会を頂き、誠にありがとうございます。私は2023年9月1日からスタンフォード大学医学部 精神医学・行動科学部門の篠崎 元研究室に留学をさせていただいております。スタンフォード大学医学部はアメリカ合衆国のカリフォルニア州に位置しており、世界中から様々な分野の研究者が集まっています。実は私自身は麻酔科医なのですが、「術後せん妄」という共通のテーマで研究をされている精神科の篠崎先生の存在をX(旧Twitter)を通じて知ったことがきっかけで、今回の海外研究留学が実現しました。術後せん妄は高齢の術後患者に多く発症し、急性に興奮状態やうつ状態を呈します。術後せん妄の発症は、術後の回復(食事摂取やリハビリテーションの遅延)や家族への心理的負担など多方面に影響します。さらに、術後認知機能の低下を来す可能性があり、手術後のQOLに直結するため、近年世界的に注目されています。しかし、術後せん妄は急性発症が特徴であるため、しばしばその診断・評価方法に難渋します。その上、確立された予防・治療薬も存在しません。篠崎先生の研究室では、ヒトおよび動物モデルにおいて術後せん妄を検出可能な革新的な脳波デバイスを発表しており、非侵襲的かつ継続的にせん妄の評価が可能です。そこで私は術後せん妄の新規予防・治療薬の開発を、術後せん妄脳波が検出可能なモデルマウスを用いて実施しています。脳波の評価は、麻酔科医として全身麻酔中にも施行することが多かったため馴染みがありましたが、研究内容のディスカッションでは実際のせん妄脳波の解釈やその意義に関して、麻酔科医と精神科医で異なった視点を持っているということを度々実感することがあります。研究者として幅広い視野を持つという意味でも、診療科の垣根を越えて留学する意義を感じています。また、様々な新規治療法を検討する中で、篠崎先生にスタンフォード大学医学部の他の精神科研究室をご紹介いただき、イギリス人の女性研究者と共同で治療法を開発する機会を頂きました。一緒に顕微鏡下にマウスの脳手術を実施し、英語での様々なディスカッションを通じて、研究に対する姿勢や取り組み方に加え、プランニングの仕方などこれまで日本で習って来たことがより高いレベルでブラッシュアップされていくような感覚を得ています。現在も共同研究は進行中であり、成果を形に出来るように引き続き研究活動に邁進したいと思います。上原記念生命科学財団 リサーチフェローシップⅠで渡航させていただき、日本では実施されていない最新の術後せん妄の研究や、スタンフォード大学医学部に所属している優れた海外研究者と交流する機会に恵まれております。この場をお借りして厚くお礼申し上げます。93青山 文Stanford University School of Medicine(国立病院機構高知病院麻酔科)スタンフォード大学医学部キャンパス前にてスタンフォード大学医学部留学体験記

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