2023年9月より、University of LiverpoolのLiverpool Centre for Cardiovascular Scienceに留学の機会を頂いており、渡英より約8ヶ月が経過いたしました。生活や仕事の現状について、報告させていただければと存じます。私が滞在している町は、Liverpoolというイングランド北西部の港湾都市です。世界史では三角貿易の拠点として、音楽ではビートルズ誕生の地として、最近ではリバプールFCのクロップ監督の惜しまれつつの勇退など、意外に知名度が高い場所です。ただ、現地に日本人は殆どおらず、日本からのアクセスもお世辞にも良いとは言えず、これまでの日本との繋がりはそこまで無いのが現状です。私が留学している研究室は、CHA2DS2-VAScスコア、HAS-BLEDスコアの開発で有名なGregory YH Lip教授らを中心として設立された比較的新しいラボです。心房細動をはじめ様々な心血管疾患に関して、世界中から集まる大規模データを駆使した臨床研究を数多く行っており、フェローや大学院生も、中国、マレーシア、イタリア、ポーランドなど出身地は非常に多様です。特に、Lip教授の来るものは拒まない性格のためか、非常に多くのフェローが短期間で入れ替わります。本施設への留学に関しては、自分も国内の伝手を頼ってメールでの飛び込みアポイントメントを試みて達成したものであり、これは縁もゆかりも無い人間でも問題なく受け入れる土壌があってのものかと思います。彼らの多くは、私と同様に出身国で医師として働いており、それぞれの国での診療の実際や医療に対する考え方などを知ることはとても勉強になります。また、自ずと自国についても話す機会は増え、医療や社会についての実情と問題点について英語でどのように伝えるかというのは自分の中の新たな理解を探すきっかけになります。研究については非常にテーマが多彩ですが、先述の如く入れ替わりの激しいフェローの中で重複しないように割り当てられるため、留学開始時のタイミングに左右される部分が大きいです。現在私は、予てからの専門であった心房細動の臨床研究に加えて、急遽心脳連関に関する研究も行っております。これらのデータベースに対して、従来の統計学的手法に加えて機械学習によるアプローチで新たな知見を出すことが目標です。特に機械学習については、留学前には全く関わりが無かったですが、渡英直前にボスから直接、「よく勉強しておくように」とメールを頂いてから急いで準備しました。実際には、周りの優秀な大学院生から方法を教えてもらいながら進めております。また、近日中には、附属施設であるLiverpool Heart and Chest Hospitalでのカテーテルアブレーションを中心とした不整脈診療を定期的に見学させていただくことを予定としております。日常生活については、現地では日本人は非常に少なく滅多に関わることはありませんが、偶々施設の別部署にスタッフの先生がおられ、心強く感じております。また、食に関しては現地でも様々な階層の人々から人気があり、米等の日本食材がコンビニレベルでも容易に手に入るため、あまり困っておりません。注意点として、英国ではスタッフの休暇が絶対の権利として守られているためか、あるいは職業意識の問題か、事務仕事にとても時間がかかることが多々あります。そのプロセスで仕事がスタックすることも珍しくありません。ただ、その中で自分ができることを探して留学期間を少しでも自分の成長に繋げていきたいと思います。最後になりましたが、今回の留学に関して、心強いご支援を頂いた上原記念生命科学財団の方々に深く御礼申し上げます。引き続き宜しくお願いいたします。95石口 博智Liverpool Centre for Cardiovascular ScienceUniversity of Liverpool(山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学)通勤中の市街地の風景University of Liverpoolへの留学
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