上原国際シンポジウム2020「Brain–Periphery Interactions in Health and Diseases」が2020年6月8日から10日まで上原記念生命科学財団の主催により開催されます。
我々の体の恒常性は、神経系、内分泌系、免疫系などの制御システムにより維持されています。これらの制御システムは、脳と末梢との精緻で双方向性の連絡を介して相互作用しています。これらのシステムの破綻が、複数の臓器の恒常性の異常を引き起こし、様々な病気を促すことも示されつつあります。例えば、脳は、肝臓、心臓、脂肪組織といった末梢臓器から求心性神経やホルモンを介してシグナルを受け取り、遠心性神経を介して末梢臓器にシグナルを送り返して、代謝機能や心循環機能を司ります。これらの相互作用の障害は、代謝疾患や心不全のリスクを高め、老化を促進する恐れさえあります。免疫系も脳機能に影響を与えます。出生前後の感染は、出生後の精神疾患の発症率を高めます。この現象には免疫サイトカインや特定のT細胞サブセットが関わり、発達過程の脳にT細胞がどのように働くかも今では明らかにされています。またT細胞は大人になってからの脳機能、脳傷害、神経変性疾患においても多様な役割を担います。脳の在住免疫細胞であるミクログリアは、アストロサイトやオリゴデンドロサイトと同様に、しばしば末梢からの炎症性刺激を感知し、脳のリモデリングを促します。加えて、末梢からの多様な感覚入力は脳で統合され、意識や行動だけでなく、我々の体の恒常性制御にも影響を与えます。
これらの進歩に基づき、上原記念生命科学財団は第10回特定研究「脳-末梢連関による生体恒常性の維持とその破綻」を発足し、2018年から3年間にわたり、国内研究者20名の研究を助成してきました。
本国際シンポジウムでは、本助成を受けた20名の国内研究者の研究成果報告とともに、この研究分野で活躍する一流の海外研究者を11名招待し、最先端の研究内容をご講演いただきます。本国際シンポジウムが、皆様とともに、脳-末梢連関による恒常性制御の持つ生理的・病態生理的意義を議論する場となりましたら誠に幸いです。
多数のご参加をお待ちしております。
2019年12月吉日
[補遺]
当初2020年6月8日~10日に東京で開催を予定しておりました上原国際シンポジウム「Brain–Periphery Interactions in Health and Diseases」は、新型コロナ感染症拡大により、全講演をWEB会議として2021年6月7日~9日に開催を延期いたしました。今回のパンデミックで、医学生命科学の顕著な進歩にも関わらずこのような新しい感染症の前に我々がいかに無力であるか、今後これらが惹起する病態に対して多くを明らかにする必要があることを気付かされました。このような背景のもと、また、このような背景であるから尚更、この前例のない時期に国際シンポジウムを開催し我々自身の科学を深めることは、極めて重要で価値あるものと思います。これまでのようなface-to-faceの討議はできませんが、上原国際シンポジウムを通して科学が進歩し、明るい未来が切り拓かれることを切に希望します。
2021年2月吉日